避難安全検証法(ルートB1)を適用する際、従来の仕様設計とは設計上気を付けなければならない部分が異なってきます。従来の考え方に基づいて設計を進めると、意外な所で避難安全検証法の結果に悪影響を与える場合があります。そのため、ここでは避難安全検証法を用いて設計を行う場合に考慮すべき点についてまとめてみたいと思います。
下記に、避難安全検証法を適用させている計画において、変更があった場合に計算結果が変わる可能性がある代表的な項目を記載します。
下記項目の変更があった場合は、改めて検証を行う必要が出る場合がありますのでご注意ください。
・室の用途、形状、面積、天井高さ、床段差、内装
・建具の位置、寸法、防火設備性能の有無
・避難に使用できる扉の有無
・直通階段の位置
避難安全検証法を利用して設計する場合、仕様規定と同じ考え方のまま設計してもクリアできないことが多いため、プランニング時に考慮しておいた方がよい内容があります。
※下記内容は、あくまで一般的な内容です。計画によって気を付けるべき箇所も異なってくる場合がありますので、ご注意ください。
また、検証法によって避難規定を除外できるのは、検証法で除外項目相当の性能を有することを確かめることができたからです。例えば、竪穴規定の除外をする際に、竪穴区画で求められていた性能が単純に不要になるという訳ではないのでご注意ください。
・ 主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料であること。
・ 自力で避難することが困難であると考えられる用途がないこと。
・ 告示に規定されていない用途の室がないこと。
・ 階避難安全検証法は階毎に適用される。
・ 建築基準法の排煙設備規定の除外のみで、消防法の排煙設備は除外できないこと。
・ 直通階段までの歩行距離規定は除外できますが、2以上の直通階段や重複距離の規定は除外できないこと。
・ 全館避難安全検証法で除外できる防火区画は、高層区画・竪穴区画・異種用途区画のみで、面積区画は除外できないこと。
天井はできるだけ高くする。
[煙が溜まる容積が大きくなるため]
ただし、計算上、天井高さが一定の高さを超えると不利になる場合があります
内装材はできるだけ不燃材にする。
[煙の発生量を抑えられるため]
異種材料がある場合、原則最も性能の低いものの値になるが、見付面積1/10以下であれば考慮しないことも可能です。
極端に狭い居室は作らない。
[煙が早く充満し易いため]
在館者密度が高い室等は、狭い方が有利になる場合や、歩行距離が伸びることによって不利になる場合もあります。
室形状はできるだけ正方形に近い形とする。
[歩行距離が短くなるため]
避難に使用できる扉はできるだけ多くする。
[避難できる扉幅が増え、歩行距離も短くなるため]
避難に有効な扉幅は、有効でW=600以上が必要です。
また、フランス落し等で固定されている部分は避難幅から除かれるので注意が必要です。
避難に使用できる扉の有効幅をできるだけ広くする。
[避難し易くなるため]
別の居室を必ず通らないと廊下等へ出られない室はできるだけ作らない。
[親室は子室の避難者も考慮して計算されるため]
室内に床段差はなるべく作らない。
[計算上、非常に不利になるため]
火災室から避難経路への扉をできるだけ防火設備にする。
[煙の伝播が遅くなるため]
防火設備は、令第112条第19項に規定されたものとする必要があります。
煙伝播経路の扉幅や高さをできるだけ小さくする。
[煙の伝播が遅くなるため]
煙伝播においては、扉幅は小さい程有利ですが、避難時は小さい程不利になります。
また、ガラス部分は開口部扱いとなり、煙伝播上不利になります。
外部出口や直通階段はバランス良く配置する。
[歩行距離を短くするため]
直通階段の一つは直接地上に避難できるようにする。
[避難階内部を経由する避難者数を減らすため]
外部出口・直通階段前に安全区画を形成する。
[最終出口に居室が面さないようにするため]
安全区画に排煙設備が設置されるとより良い。
火災室から竪穴部分への扉をできるだけ防火設備にする。
[煙の伝播が遅くなるため]
従来の避難関係規定は、平均的な建物の形態を想定して、仕様書的に決められた基準であるため、機能的でなかったり、設計自由度が低かったりという問題点がありました。
平成12年の6月の建築基準法の改正に伴い導入された避難安全検証法では、安全性の確保はもちろんのこと、より機能的で自由度の高い建物をつくることを可能にしました。
こちらのページでは、実際に避難安全検証法を適用させることによって、お悩みを解決した事例をご紹介します。建物の新築・改築をお考えの方は参考にして頂ければと思います。
建建築基準法[仕様規定]で定められた排煙設備を設置すると、建設コストが跳ね上がり、さらに維持管理や定期報告まで大変ということはありませんか?
排煙設備がなくなることで、建設・メンテナンスコストの削減に成功。完成後の維持管理の必要性もなくなりました。
適用例:物販店舗、工場、事務所、倉庫など
関連条文:建築基準法施行令第126条の2・3(排煙設備の設置・構造)
物販店舗の建設を計画する際に、想像以上に設置が必要になるのが屋外出入口です。建築基準法[仕様規定]で定められた扉幅の場合、「こんなに多く扉を設置しないといけないの?」と感じることもあると思います。
普段は利用しない場所に出入口があっても無駄であり、スペースの有効活用ができないだけでなく、非常時に混乱を招きかねません。
火災時でも安全であることが避難安全検証法で確認できれば、余計な場所へ屋外出入口を設置する必要が無くなります。
不要な扉を設置せずにすんだことで、スペースを確保することに成功しました。
陳列スペースやストックスペースが増えたり、動線がシンプルになったりすることで、避難経路がわかりづらいという悩みも解消されました。
適用例:物販店舗
関連条文:建築基準法施行令第125条第3項 (物品販売業を営む店舗における屋外への出口幅)
建築基準法[仕様規定]にもとづいて歩行距離を満たそうとすると、必要以上に直通階段をつくらなくてはならない。そんなことはありませんか?
特に建物の規模が大きくなると、いろんなところに直通階段を設置しなければならないので設計に苦労することもあるかと思います。
火災時でも安全であることが避難安全検証法で確認できれば、直通階段の設置数を減らすことができます。
不要な階段を設置せずにすんだことで、設計自由度が向上し、余計な階段や通路が無くなる分、レンタブル比を増やすことができました。
適用例:工場・物流センター
関連条文:建築基準法施行令第120条(直通階段までの歩行距離)
執務空間の快適性の向上の一環で、「事務所の天井高さを上げたい」というケースはよくあります。
建築基準法[仕様規定]で自然排煙を計画していた建物の場合、天井から80cm以内の部分に窓がなくなってしまい、排煙量が足りなくなってしまう。しかし、それを補うために機械排煙を設置するのはコストが掛かるからと、天井を高くすることをあきらめたことはありませんか?
火災時でも安全であることが避難安全検証法で確認できれば、排煙設備の規定を除外することができます。
排煙設備を追加するという余計な改修工事をせずに直天井の空間を実現。無事に開放的な空間とすることができ、無駄なコストを削減することができました。
適用例:事務所
関連条文:建築基準法施行令第126条の3(排煙設備の構造)
劇場の計画をする際に、地方自治体の条例などによっては、「客席と舞台間は区画する」という条文があることがあります。
「せっかくの舞台空間に演出の妨げになるものはつけたくない」とは思いつつ、決められたものなので仕方がないとあきらめてはいませんか?
条例をよく見ると「避難安全性能などを有する建築物に対する適用除外」という条文はありませんか?
避難安全検証が適用できれば、そのような条文を除外することも可能です。
区画が不要になり、シャッターを設置する必要が無くなることで、コストの削減に成功し、意匠的な制約も無くなったため、設計自由度も向上させることができました。
適用例:劇場
関連条文:地方自治体条例
令和3年に避難安全検証法(ルートB2)が新たに施行されました。
これまでのルートB1とは大きく異なる部分もありますので、その内容について解説します。
避難安全検証法(ルートB2)の導入の背景
避難安全検証法(ルートB2)の考え方
避難安全検証法(ルートB2)の適用例(参考)
等のことから「ルートB2」が導入された。
→出口通過時間は、出口滞留時間と歩行時間の大きい方を採用する形になっている。
(ルートB1のような、歩行時間と出口通過時間の合算ではなくなった。)
→区画、階避難検証は火災室隣接部分の煙層下端高さが基準になっている。
(ルートB1のような、単純に階段室前に前室を作っておけばクリアする、というような手法は通用しなくなった。)
→竪穴部分を出火室とした場合の設定が追加されている。
(ルートB1のような、竪穴部分に煙が流入した時点で全館煙降下時間が決定される形では無くなっている。)
・除外できる避難関係規定はルートB1と同じになります。
※下記内容は、現時点での情報を踏まえて、適している可能性があるケースを記載していますので、あくまで参考とお考え下さい。
・扉を追加することや天井高さを上げることが難しい小割のテナントオフィスビル
・ルートB1においてはクリアすること自体が難しかった内装仕上げを木材としたい室がある計画
・対象範囲の一部に、ルートB1においては検証対象外となっていた診療所や託児所等がある計画